Tokyo Cuisine SAUTOIR HOME
プライムソトワール(味へのこだわり) 料理・洋菓子のレシピ スペシャルインタビュー ソトワールコンシェル 出版図書紹介 フランス料理:用語集 食の雑学事典
パティシエという存在が注目を集め、変容を続けるフランス菓子の世界で、こつこつと伝統的なフランス菓子を作り続けている菓子職人がいる。パティスリー オーボンヴュータンのオーナーシェフ河田勝彦氏。昭和39年、東京オリンピックの年にフランス料理の料理人として業界に入った河田シェフは、その後フランス菓子に魅かれ、渡仏。9年間をかけてフランスの伝統菓子や郷土菓子を研究し、帰国した。日本におけるフランス菓子の基礎を築き、数々の後進たちに影響を与えながら、今も若い人と一緒に現場で汗を流す河田氏にお話を伺った。
パティシエブームと呼ばれる時代ですが、そのことについてはいかがお考えですか?
河田 マスメディアが強調する華やかな菓子の世界だけを見て、菓子の世界に入ってくる若い人が多く、菓子職人としての職業意識は年々弱まっています。基礎もできていないうちから、現在活躍する若いパティシエを見て、すぐに彼らの真似をしようとする人もいます。しっかりとした基本を得て、味を見て、今の変化を見極めて初めて独創性というものは生まれてくるのです。そこを勘違いして、斬新なことばかりを追い求めている。それでは、本末転倒になってしまいます。製菓学校等には菓子屋としての基本をきちんと教えてほしいなと思います。
若い人がいろいろな店を食べ歩いて勉強するのは大変結構なことですが、しっかりとした商品を作っている店を見極めて、その味を脳裏と舌に刻み込むことが必要なのです。
若い人たちへの指導はどのようになさっているのですか?
河田 当然62歳にもなれば体力も落ちますし、言葉も丸くなりますが、こちらもパワーを見せなくては若い人はついてきてはくれません。僕には人を教育する、という概念はなくて、ただ一緒になってガンガン働こうと思っているだけです。あとは彼らが自覚を持って僕についてこようとすれば自然と仕事も覚えてしまうのです。今の人は素直ですが、なかなか自分の中の意地を表に引っ張り出そうとしません。しかしその意地こそが職人根性の素地を作るのだと思うのです。今の人は、自覚を持ってそれなりのポジションにつくまでに4年くらい掛かります。僕の店には10年以上勤めている人が多いですね。職場は競争です。後輩に追い抜かれたり、同期に先を越されたり。その中で自分のポリシーをしっかり出す人は成長します。仕事にはけじめが大切ですから、何でもいいと思って取り組んでいる人は伸びません。
常に現場に立っていらっしゃるとは、すごいパワーですね。
河田 あまりフランス料理を意識し過ぎないで、日本のフランス料理を表現していきたいです。なるべく日本の食材を使って、野菜等は当然ですが、ワインも日本の物も多く用意しています。日本人に合った食文化としての、フランス料理をめざしたいと考えています。
シュークリーム専門店や二子玉川のイレール・ドゥーブル等の店舗展開についてお聞きしたいと思います。
河田 僕が先頭に立って仕事場にいないと、「この店に勤めたい!」と強く思って来てくれた若い人たちに失礼にあたりますし、何より僕の菓子を買いに来てくれたお客さまを裏切ることになります。僕の知っているパティシエは自分が店を留守にする時は店を閉めています。周囲の人間を信頼していないとうことではなく、自分の店なんですから、それが本当だと思うのです。
TOP
河田シェフのお気に入りの菓子を教えてください。
河田 うちの店では「パリゴー(パリ野郎)」という名で売っていますが、僕はどの店に行ってもシュー・ア・ラ・クレームを食べます。なぜかと言いますと、シュー・ア・ラ・クレームを食べると、その店の趣旨が分かるからです。材料の配合がほとんど変わらないシンプルな商品だからこそ、作り手がこの菓子で何を訴えて作っているのかがダイレクトに伝わってくるのです。菓子職人の中には中身をほじくりだして構造を確認しながら食べる人がいますが、菓子は上から下に断面に切って食べるのが普通の食べ方です。僕は人の菓子を食べる時は、ひとりの食べ手になります。普通に食べることで糖分や香り、食感のバランスが分かってくるのですから、食べる時は上から下、ですね。
フランス菓子の魅力を一言で表現すると?
河田 フランス菓子の魅力は、「人間の手が加わっているのがちゃんと見えること」だと思います。僕自身は、シュー・ア・ラ・クレームが横になっていようが、エクレアからフォンダンが横に流れていようがかまいません。職人として見たら「仕事がだらしないよ」と思うような野暮ったくて、ぐちゃーっとなったお菓子でも、人が作った感じが伝わってきて、かえっておいしそうに見えたりするんですよね。フランス菓子には、食べ手に語りかける間や余裕があります。僕はそれでフランス菓子が好きになって、9年間フランスにとどまったんです。スイスやドイツで几帳面なそうなお菓子を見ても、少しもおいしそうに見えなかったんですね。
河田シェフの夢をお聞かせください。
河田 あと15、16年は現場で仕事を続けたいです。僕には仕事しかないですから。昨年コンフィズリー用の厨房を作りました。これからも新たな世界を作り上げていきたいと思っています。
本日は大変貴重なお話をありがとうございました。これからもますますのご活躍を楽しみにしております。
TOP

PATISSERIE  AU  BON  VIEUX  TEMPS パティスリー オーボンヴュータン

住所/東京都世田谷区等々力2-1-14
最寄駅/東急大井町線尾山台駅から徒歩5分
営業時間/9時〜18時30分 18:00-21:00LO 
TEL/03-3703-8428
定休日/水曜日
東急大井町線尾山台駅から徒歩5分。そこだけ時間が止まったようなフランスの濃密な雰囲気を漂わせる店内には、生菓子、焼き菓子、パン、コンフィチュール、コンフィズリー、ショコラ、ソルべなどが表情豊かに並んでいる。カフェスペースでは往来を眺めながらお酒を楽しむこともできる。店名はフランス語で「思い出の時」の意。
Profile
1944年、東京生まれ。早くから料理人を志し、食品について学ぶために農大短大を卒業し、1964年、丸の内精養軒に入社。 その後菓子職人に転向し、1966年に渡仏。パリを中心に、「ポテル・エ・ジャボ」をはじめ、数店で修業後、「ヒルトン・ホテル・ド・パリ」のシェフ・ド・パティシェを務める。 また在仏中から、地方の伝統菓子を熱心に研究。各地を回り、さまざまな地方の伝統菓子を検証した。約10年間に及ぶフランスでの修業を終え帰国。 「かわた菓子研究所」を設立。フランス菓子の造詣の深さを専門誌で展開するなど、古典菓子の研究に勤しむ。1981年、世田谷区等々力に、「パティスリー・オー・ボン・ヴュー・タン」を開店。 フランスの地方菓子、伝統菓子を中心にした本格フランス菓子店として、またフランス菓子の全体像を展開する店として日本でも数少ない名店と話題を呼ぶ。 焼き菓子から砂糖菓子、チョコレート菓子、氷菓、料理まで、その幅の広さと菓子の持つ個性は鮮烈で、現在、最も技術の高いフランス菓子店として評価されている。
Profile
TOP