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プライムソトワール(味へのこだわり) 料理・洋菓子のレシピ スペシャルインタビュー ソトワールコンシェル 出版図書紹介 フランス料理:用語集 食の雑学事典
神楽坂にほど近い落ち着いた住宅街に多くのフランス料理ファンを魅了する名店 ル・マンジュ・トゥーがある。
おまかせコース1本(8皿)で1ヶ月 先まで予約が絶えない、今や東京を代表する人気のフレンチレストラン。今回はル・マンジュ・トゥー オーナーシェフである谷 昇氏に、料理作りの哲学とメニュー構成、自身の料理人としてのありかたについてインタビューした。
── 8皿からなるコース料理1本というコンセプトについて、またその中での前菜料理の役割、素材構成をどう考えて調理されていますか。
私がこの世界に入った時代はもちろんクラシックでしたから、皿数も“ドゥー・プラ” (二皿のコース料理)というスタイルです。自分自身の基本の部分もクラシックにあると思います。今でもそこに半分は軸足を置いているつもりです。ただ「俺達の時代はこうだった!」と押しつける意識は私には全くありません。時代の要求に応えた一つのスタイル、それが私の中では8皿の「少量多皿」ということなのです。8皿にしているもう一つの理由は、フランスには「8行詩」という伝統的な文学のジャンルがあります。これは8行の間に強弱がなく、すべて対等というスタイルの詩。その8行詩にメニュー構成の範を求めたのです。その8皿のなかでも前菜の占めるウェイトは5品。時代の変化とともに前菜の役割は、私自身の中でも変化していることは確かですね。食材やソース、ガルニチュールの組み合わせを変えて、アラミニッツ(瞬間的に仕上げる料理)な一皿と 物凄く手の込んだ皿をバランス良く、制限無く、良い意味での驚きを、お客様に楽しんでいたけるジャンルが前菜だと考えています。
── 谷シェフが日々格闘するなかで、フランス料理人としての進化のありかたについて、伝えていきたいエスプリとはどのようなことでしょうか。
シェフという立場から言えば、ライバルはたくさんいるので、キュイジーヌ・モデルヌ(現代のフランス料理)も大切ですが、私は料理とは基本的に伝承だと思っています。若いスタッフ達に自分達がやってきたこと、できること、フランス料理の奥深さや伝統や技法について日々話をしています。クラシックな手の込んだ料理を作る大切さ、そして「プロの仕事とは何か!」を如何に彼らに噛み砕いて伝えていくかが重要です。それと料理とは自分の生活観や、育ってきた時代背景に左右されるものだと思います。私は「団塊」の次世代で東京出身ということもあり、ファッションやトレンドに元々敏感だったような気がしますね。今でもその部分(感受性)を大切にしているし、時代の変化に対するアンテナを機能させておかないと、絶対にレストラン経営はやっていけないと私は思っています。それでも片足の基軸(ベイシック、クラシック)はぶれない、それでいてもう一つの片足はフリーでいたい、シェフという「冠」を就ける以上、その結果に言い訳はできないし、逃げることもできません。他のレストランのシェフ達は皆さんライバルだと思っていますし、勿論、偉大な先輩達や同輩のオーナーシェフ達、自分よりもはるかに若い「カンテサンス」の岸田シェフのような料理人からも多くの刺激を貰っていますよ。ですから私は、若いスタッフ達にアン・キュイジニェ(調理人)ではなく「レストラトゥール(レストラン事業家)になりなさい!」これからのシェフにはそれが求められるといつも話しています。
── ミシュラン東京で2つ星を獲得されて、それによる顧客の変化と谷シェフの現在の心境は如何でしょうか。
その評価については私自信が一番戸惑っています。連絡もなしにキャンセルをするようなお客が物凄く増え、利用者の質も日本は未だ成熟していない気がします。100年以上の歴史を持つフランスのギード(ガイド)とは別の物だと私は解釈しています。フランスで3つ星、2つ星の店で働いて、ギードに対しての憧れはありましたから、その違いは自分の中で整理できているつもりです。今後、「ミシュランガイド東京」がどのように日本に根付き、歴史的に熟成されていくかは私にはわかりませんし、それは世の中が決めるものだと思っています。評価を頂いたことは勿論大変ありがたいことです。今はそれから数ヶ月が経ち、予約も1ヶ月先まで常に満席状態になり、予約帳を見た時は逆に大きなプレッシャーを感じるようになりました。私は店に寝泊りしていまして、自宅には週末しか帰らないので、殆ど24時間店にいます。当然、1人になると色々な事を自問自答しながら、そのプレッシャーを再確認しています。気弱になるもうひとりの自分、でもスタッフの前ではおくびにも出せない。だから辛い。手を抜きたいと思うこともありますが、お客様が求める料理に安易な妥協は許されない。普通に美味しい料理と「レストランの料理」とは違う物だと解釈しています。オーソドックスでシンプルな料理も良いと思います。でもレストランの料理は「戦い」なのです。これからも、もうひとりの自分とも日々葛藤しながら、できるかぎりの自分の料理を表現していくつもりです。
── 貴重なお話を頂き、ありがとうございました。本日作っていただいた2皿の前菜料理も、谷シェフの料理人としての「プロ魂」が表現されている素晴らしい料理だと感じました。これからも益々のご活躍を、心からお祈り申し上げます。
PROFILE

Noboru Tani 谷 昇

1952年東京都新宿区生まれ。

高校卒業後、服部栄養専門学校に入学。
在学中から六本木「イル・ド・フランス」で働き、そのまま就職。
24歳で渡仏、帰国後、数軒のレストランのシェフや調理師学校の講師などを経て、37歳で再度フランスへ。
帰国後、「オーシザーブル」などを経て94年「ル・マンジュ・トゥー」のオーナーシェフに。

ル・マンジュ・トゥー Le Mange-Tout

住  所 東京都新宿区納戸町22
電  話 03-3268-5911
営業時間 Open 18:30 Last order 21:00
※ランチの営業はいたしておりません。
定休日 日曜日(祝祭日は営業)
メニュー シェフのおまかせコースのみ 12,600円(税込、サービス料10%別途)
※クレジットカード各種ご利用可

 
 
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